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鹿児島地方裁判所 昭和39年(行ウ)4号 判決

原告 利岡静栄

被告 鹿児島地方法務局登記官

訴訟代理人 高橋正 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三九年六月一八日付でなした原告の鹿児島市鴨池町六四四番二四所在宅地三七坪八合四勺および同町同番二六所在宅地一〇坪二合八勺についての所有権取得登記申請を却下した処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因として、

一、鹿児島市鴨池町六四四番二四所在宅地八五坪九合六勺および同町同番二六所在宅地一〇坪二合八勺は、もと原告と訴外阿野喜代子との共有であつたが、昭和三九年三月一〇日、鹿児島地方裁判所で、原告と同訴外人との間に、右共有宅地を平等割合で分割する旨の裁判上の和解(同庁昭和三八年(ワ)第三三一号)が成立し、その旨の和解調書が作成された。そこで、原告は、同年四月二七日右鴨池町六四四番二四所在地宅地八五坪九合六勺を同町同番二四宅地三七坪八合四勺と同町同番二四宅地三七坪八合四勺とに分筆登記し前記同町同番二六宅地一〇坪二合八勺の二筆の宅地の単独所有者となつた。

二、昭和三九年六月一五日、原告は、右和解によつて単独所有権を取得した右二筆の宅地につき右和解調書を登記原因として鹿児島地方法務局に単独で所有権取得登記の申請をしたところ、被告は、「本件登記申請書添付の和解調書正本は共有物分割に一ついての和解を内容とするものであるから本件の場合は共有物分割を原因とする持分の移転登記として双方共同で登記の申請をすべきである」との理由で、不動産登記法第四九条第三号、同条第七号を適用して右登記申請を却下した。

三、しかし、共有物の現物分割の性質は、被告のいうように共有者相互間にその各持分の移転が行われるものではなく、これによつて共有関係を終了せしめるとともに各共有者をして分割によるその取得部分について創設的に単独所有権を取得せしめるものである。すなわち、原告は、前記和解調書によつて請求の趣旨記載の二筆の宅地について創設的に単独所有権を取得したのであるから、前記和解調書を登記原因として、かつ単独で、その所有権取得登記手続をなしうるのである。従つて、原告の前記登計申証を知下した被告の処分は違法であり取り消されるべきである。

と述べ、

証拠として、甲第四ないし六号証を提出した。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

一、請求原因一および二記載の事実は認める。

二、本件登記申請の却下処分は適法である。

共有物の分割は、これを理論的にみれば、各共有者の間に共有物の各部分についてその有する持分の交換又は売買が行われることであつて、各共有者が分割によるその取得部分について単独所有権を原始的に取得することではない。

従つて、共有物の分割を原因とする本件登記は、持分移転登記でなければならない。

かりに、共有物の分割によつて原始的に単独所有権を取得するものと解する余地があるとしても、共有物の分割により、各共有者が有していた持分権は消滅してその帰属を離れ、それと同時に他の共有者がこれを原始的に取得する。いわゆる移転的原始取得とみるべきであり、このような権利変動の状態を明らかにするのが不動産登記法の精神であるから、この見解に立つとしても、なお、本件登記は共有物分割による持分移転登記でなければならない。

又、登記申請書に記載すべき「登記原因」とは、登記すべき不動産に関する権利変動又は不動産の表示若しくは登記名義人の表示変更の原因である法律行為又は法律事実をいうのであり、その日付は右の法律行為又は法律事実により変動又は変更の生じた日であるから、本件においては、「昭和三九年三月一〇日共有物分割」を登記原因及びその日付として持分移転登記を申請すべきであるのに、原告は、「昭和三九年三月一〇日鹿児島地方裁判所昭和三九年(ワ)第三三一号和解調書正本」を登記原因及びその日付として所有権取得登記を申請したので、被告は、右登記申請は不動産登記法第四九条第七号にいう「申請書ニ掲ゲタル事項カ登記原因ヲ証スル書面ト符合セサルトキ」に該当するものと判断して、これを却下したのである。

次に、不動産登記法は、登記の申請について登記権利者と登記義務者の共同申請を原則とし(同法第二六条)、例外的に、判決による登記は登記権利者が単独でこれを申請しうることとしているが(同法第二七条)、この場合の判決は登記手続を命ずる給付判決又はこれと同視すべき給付の和解調書に限られる趣旨であるところ、本件和解調書は給付判決と同視することができないから、本件登記は登記義務者阿野喜代子との共同申請によるべきであるのに、原告は単独で本件登記申請をしたので、被告は、右登記申請は、不動産登記法第四九条第三号にいう「不動産ノ表示ニ関スル登記ヲ申請スル場合ヲ除ク外当事者カ出頭セサルトキ」に該当するものとして、これを却下したのである。

と述べ、

甲号各証の成立はすべて認めると述べた。

理由

請求原因一および二記載の事実は当事者間に争いがない。

そこで、被告のなした本件登記申請却下処分が違法であるかどうかについて考える。およそ、共有持分は単独所有権と性質内容を同じくし、かつ共有目的物の全部に不可分的に及ぶものであり、ただその分量および範囲が他の共有者の同一の権利によつて減縮されるものにすぎないというべきところ、このような持分の法的性質と共有分割による共有者間の担保責任を定めた民法第二六一条の規定とを綜合勘案すると、共有物の現物分割は、実質上共有者相互間に行われる持分の一部交換とみるべきであつて、これを本件についてみると、原告は、本件和解によつて訴外阿野喜代子との共有宅地を現物分割したことにより、その分割前同訴外人が本件宅地上に有していた持分を移転的に取得し、その結果、同宅地の単独所有権を取得するに至つたものというべきである。

又、本件和解は、原告と同訴外人との間になされた共有物分割の合意をその内容とするものであり、この合意によつて原告が右宅地の単独所有権を取得したのであるから、本件の場合、原告は共有物分割を登記原因として持分移転登記を申請すべきものといわなければならない。しかるに、原告は本件登記申請にあたり和解調書を登記原因として所有権取得登記を申請したのであるから、右登記申請は適法になされたものということができない。

又、不動産登記法は、同法第二六条において登記は登記権利者と登記義務者との共同申請によつてなされることを原則とする一方、同法第二七条において判決による登記については登記権利者の単独申請により為しうるとの例外規定を設けているが、右にいう判決とは、登記申請に対する登記義務者の協力に代わるべき意思の陳述を命ずる給付判決又はこれと同内容の給付を命ずる裁判上の和解若しくは調停に限られるものと解すべきところ、本件登記の登記義務者が訴外阿野喜代子であることは前記説示したところから明らかであり、又、成立に争いのない甲第四号証(和解調書正本)によれば本件和解は同訴外人に対し右のような給付を命じたものではないことが明らかであるから、本件登記は不動産登記法の原則とするところにより、原則と同訴外人との共同申請によつてなされるべきものといわなければならない。

そうすると、被告の却下処分は適法であつて原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮本勝美 佐藤繁 谷村允祐)

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